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「じゃあ、コレ渡しておくわね」
 由香里さんは白衣の胸ポケットから一枚の名刺を取り出し、オレのスーツの胸ポケットへと入れる。
 そしてオレの耳元へと口を近付けた。
「プライベートな時でも、いつでも連絡して良いからね」
「はいはい」
 顔が近かったオレ達は、キスをしようとした…がっ!
「若様、由香里。今、帰った…」
 そこへノックもなしに扉が開き、梢さんが帰還した。
 梢さんはオレと由香里さんの格好を見て、固まってしまう。
「ええっと…。おかえりなさい、梢さん」
「梢ちゃん、おかえりぃ」
 ビシッと音が鳴る。
 …それは梢さんの体から発せられた音だった。
「由香里…、アンタ何、若様にくっついてんの?」
「あらぁ、だってわたしはずっと若様の先生だったんだもん。仲良くなってもぉ、不思議じゃないでしょう?」
 由香里さん、そのわざとらしい甘ったれた声は何で今出す?
 どんどん梢さんの顔が険しくなっていくじゃないか。
「ふっ…。桔梗から若様をアンタにあずけたって聞いて、慌てて仕事を片付けて戻って来れば…一体どんな教育してんのよぉ!」
 ドカーンっと、梢さんの怒りが爆発した。
「きゃあん! 梢ちゃん、こわぁーい!」
「待ちなさい! 由香里!」
 そして二人の女性は部屋の中で追いかけっこを始めてしまった。
 オレは一人部屋に出て、壁に背をつけてため息を吐く。
「やれやれ…」
 まあ梢さんからしてみれば、教え子が親友と寝たら、そりゃ怒り狂うわな。
 後でこってり事情聴取されそうだ。
 そんなことを思いながら、げんなりしたオレだった。



 ―が、オレは本当の意味で、この会社の恐ろしさを理解していなかった。
 『性』、つまりセックスとは奥が深いもの。
 この時のオレは、セックスとは異性同士で行うものだと勝手に思い込んでいた。
 そんな考えが砕かれるのは、これからそう遠くない未来の話し。


<終わり>
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